だから私は笑顔で言ってやったんだ。





こうなることはきっとどこかで分ってたんだろうけれど、覚悟もしてたつもりだったけれど、
やっぱり実際目の当たりにすると言葉は出てこないものなんだと痛感した。

「じゃあ、身体には気をつけろよ」
「あんたには言われたくないわー、仮にも私は医療忍者なんだから健康管理くらいは出来るわよ?」
「仮にもだけどな」
「なにか問題でも?」
「いいえ」

少しにらみつけてやるといつものように肩をすくめてわかったよとつぶやく。
この季節にしてはめずらしく、今日は温かい。私と彼の吐き出す息も紫煙に似た白ではなく、相手を鮮明に映し出す、(この場合、透明といったら正しいのだろうか?)。
その映し出された彼の瞳に小さく映る私の表情だけはモノクロだからいつものように笑えているように見えた。
もし例年通りの寒さであれば、鼻が赤くても頬が赤くても寒さの所為だとごまかすことが出来たのに、と思う。

今日、シカマルは任務に発つ。
任務の内容はさすがに恋人である私でも教えてはもらえない。一言スパイみたいなもんだよと言われ、いつ帰れるのと聞いたのは3日前。
そしてそれはわからないと返ってきた。
さすがに潜入任務ならそう短くは無いだろうと思って問うたけれど、「わからない」、とは。
その任務は前々から準備が進められていたようで、私はそのとき初めてここ最近彼の帰宅時間が遅い訳を知った。
私に対しては嘘が下手な彼の言葉の裏に隠れた事実を見つけるのは容易くやはり、命の保障はなさそうだった。
そして、次の言葉を発することが出来なくなって初めて、私は彼と同じ屋根の下にいることを後悔した。
いや、ここは少しでも長く彼のそばに入れることを喜ばなくてはならなかったのかもしれないが、会話が成り立つわけもなく(もちろん私がうまく返答を返せないからだ)、家にいながら「帰りたい」と思った。
もちろん、帰りたい家とは私がそれを知る前の、いつもの我が家へ、だ。

寝心地の悪いベッドでようやく思考がうやむやになってきた明け方、(彼は私が眠っていると思っていたのだろう、)頬を撫でてごめんなと呟き部屋をでていった彼の掌の熱を思い出す。
幼いころから知っている、でもすっかり変わってしまった男らしい手。
その手から伝わってくる私を好きだという気持ち。彼は言葉を隠すのは得意だけれど、気持ちを隠すのは本当に下手糞だった。

ねぇ気づいてる?あんたの気持ちが私にバレバレだっていうこと。
きっと、気づいてるわよね?でも、気づかれてないふりをしてくれるのね?
私があんたのこと好きだって言う気持ちも、今強がって送り出してやってるってこと、全部わかってるわよね?

「っとにむかつくわねー。あんたー、チョージには教えてたんだってー?」
「お前に教えるとうるさいからに決まってるだろ」
「うるさくなんかないわよー!私この前の任務でなんて言われたか知ってんのー?」
「依頼主の心の広さに感謝しろよな」
「…むかつく」
「事実に逆ギレすんなよ」

互いに気持ちがバレバレってのもどうかと思うけど。
寂しいって分ってるのに寂しいかなんて聞いて空気重くするのもどうかと思うし。
これがもし最後だったらそんな物語の終わりはつまらないと思うし、
それってただの恋人より私らのほうが何枚もウワテなのかな、なんて。
(多分私おいって言われれば何すればいいのか分かる気がする)(逆も然り)


それでは、いつかの再会を祈って


「いってらっしゃい!」









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リハビリ。こういう相手の気持ちの分るカップルが好きです。
090220